スペシャルインタビューinterview

【エスペランサSC・第1回】「大切なことは希望を持ち夢に挑戦すること」元アルゼンチン代表が日本人に伝えたい想い–ホルヘ・アルベルト・オルテガ氏

神奈川県横浜市栄区にある育成型サッカークラブ「エスペランサSC」。TOPチームは社会人の関東1部に所属し、ジュニアチームも合わせると約300人がチームに在籍する地域に根差したクラブチームだ。代表はかつてマラドーナと共にアルゼンチン代表として活躍したオルテガ氏が務め、2003年に小さなサッカースクールとしてスタートした。

今回は、そんなオルテガ氏がなぜ日本でサッカースクールを始めたのか?
“家族”と共に歩むエスペランサSCというチームの魅力や、アルゼンチンで医師免許を取得したトレーナーによる選手へのコンディショニング方法などをじっくり語っていただきました。(全3回)

■エスペランサSCの成り立ち。チーム名に込めた想い

—今日はよろしくお願いします。まず現在サッカーの関東1部リーグに所属するエスペランサSCとはどのようなチームですか?

2003年にこの野七里の場所で、もともとは小学生のサッカースクールからスタートしました。その後、中学、ユース、社会人とメンバーが増えるにつれ大きくなり、社会人チームは現在関東1部リーグに所属しています。目標はJFLへ昇格し、その後Jリーグへの参入も視野に入れています。

—なぜ日本でサッカースクールを始めようと思われたのですか?

2002年日韓ワールドカップの際に日本に来ました。その時に日本のキリスト教会で日本の子どもたちの自殺率が高いことを知った。当時、自分の子どもが同じ年代だったこともあり、とても衝撃を受けました。その時にサッカーを通して、子どもたちに夢や希望を与えたいという想いからサッカースクールを作ることを決めました。それが「エスペランサ(希望)」という名前の由来です。
自分の経験上、サッカーは自分に自信が付くような場面がたくさんあります。また、いろんな問題に直面することもありますが、問題から逃げるのではなく立ち向かっていく気持ちを伝えていきたいと考えています。
また実は日本は世界ではコミュニケーション多い国というイメージを持たれています。しかし私が実際に見た姿は家庭内でのコミュニケーションは少なく、食事中でも携帯を見たりしていてほとんど会話がありません。なので、エスペランサでは大人に対するリスペクトや家族間のコミュニケーションをとても大事だと伝えています。
この20年でエスペランサ自体が家族のようなコミュニティになってきています。家族間の問題(親の離婚や仕事がなくなった)を抱える子どもも所属していますが、互いに助け合う気持ちを持ちサッカーに取り組んでもらっています。
このような精神は、東日本大震災で被害を受けた人たちに対して、エスペランサの子どもたちは率先して自分のお小遣いや服などを現地へ送っていました。まさにエスペランサの目指す姿が体現されていると思います。

延べ3,000人以上いる教え子の中にはJ1川崎フロンターレで主力選手として活躍し、2021年3月に日本代表に初選出された脇坂泰斗選手も所属していた。

—縁もゆかりもない日本の土地で新しくサッカースクールを作ることは大変だったと思いますが。

日本に来た時に教会の牧師にここ(現在の野七里グラウンド)を利用できるかもしれない、と言われました。実はこの場所はもともとごみ捨て場でした。しかし、私にはこの場所が緑のピッチになり、そこで子どもたちがサッカーをしているビジョンが見えました。
当時は、色んな人に「無理だ」と笑われたりしました。はじめは雑草やゴミで荒れている教会の駐車場を借りて指導をし、子供たちが怪我をしないように毎日駐車場の掃除をしていました。そのような姿を見てくれている方がいたのか、土地を売ってもいいという話が入ってきました。
そこからは手作りで少しづつ施設を増やし、今では人工芝のピッチを持つことが出来ました。大切なのは目標を持ち信じて挑戦することで、それは後になって正しかったとわかる時が来るんだと感じました。

もともとはゴミ捨て場だったメイングラウンド
施設は手作業で作り上げた

■プレーだけではなく真のリーダーだったマラドーナ

—オルテガさん自身についてもお話を聞かせてください。

アルゼンチンの北西部にあるフフイ州という土地で生まれ、親から1歳の誕生日プレゼントでサッカーボールを与えてもらいました。そこからは毎日サッカーに明け暮れて育ち、16歳でプロとしてデビューすることが出来ました。明確な目標を持ちチャレンジすることが大切だったと今になっても思います。自分にできることはサッカーなので、これまでの経験を踏まえサッカーを通じて子どもたちの成長を助けていきたいと思っています。

—アルゼンチン代表時代には、あのマラドーナ選手ともプレーしていたとそうですね!現役時代のマラドーナはどんな選手でしたか?

彼は真のリーダーでした。サッカーの常に彼のプレーは注目され天才のように映っているかもしれませんが、実際は誰よりも早く練習場に来て、最後まで残ってトレーニングをする選手でした。また、監督やサポーターとの間で衝突があった際には常にチームメイトを守るため先頭に立ち、問題に立ち向かっていく姿勢はまさに真のリーダーです。それこそが、彼がアルゼンチン国民だけでなく世界中のサッカーファンに愛されてきた理由ではないでしょうか。

■日本代表が世界で戦うために必要なこと。それは・・・

—日本はPKの末、ベスト16で敗れてしまいました。アルゼンチンは見事悲願の優勝を成し遂げましたが、今後日本が世界で勝ち上がっていくために何が必要だと感じていますか?

そもそもサッカーに対する考え方が違うと感じます。アルゼンチンは学校へ行けない、勉強もできないという子どもたちもいて、日本のように収入を得るための選択肢は多くありません。貧しい家庭も多く、子供たちは小さいころからサッカーでプロになって家族を養っていかないという責任をもってサッカーに取り組んでいます。そのような環境なので、アルゼンチン国民の人生にはサッカーが根付いていて、代表選手は皆、そのような国の代表になることの誇りと責任をもってピッチに立っています。
今回のW杯で日本はベスト16に入り、いい大会だったと記憶されるかもしれません。しかしアルゼンチンの場合、国民はベスト16でも決勝まで進んだとしても負けてしまっては最悪の大会だと認識してしまう。
このマインドは実は日本から習っているところがあって、侍魂のように「自身のプライドをかけ絶対に勝利する」といった気持ちをもって選手たちは試合に臨んでいます。
日本は過去戦争で敗れましたが、そこから立ち上がったとても強い国です。なので、スキルはもちろんですが、絶対に優勝するという目標を持つこと、そして試合はもちろん一対一の場面でも絶対に負けないという強い気持ちの部分が大事だと思っています。

—最後にこれからサッカーをもっとうまくなりたいと思っている子どもたちに向けてメッセージをお願いします。

これは、サッカーだけではありませんが、人生で大事なことは毎日を100%出しきることだと思っています。「あの時もっと頑張ればよかった。」と後悔することが最もよくない。今起きていること、今取り組んでいること、全ては「今」を100%努力することで、将来的に後悔することはなくなるでしょう。



クラブ創設から20年が経ち、一貫してサッカーだけでなく人格形成の場として選手たちと接するオルテガ氏。アルゼンチン代表として世界で戦ってきたオルテガ氏のメッセージには強い想いが込められていて、サッカーだけでなく私たち生きていく上でのヒントが散りばめられていると感じました。
次回はそんなオルテガ氏の息子であり、エスペランサSCのコンディションを支えるチームトレーナーのパブロ氏のインタビューです!アルゼンチンの医師免許を取得しているパブロ氏が、選手のコンディショニングを維持するために意識していることなどをお伺いしました!お楽しみに!

ホルヘ・アルベルト・オルテガ氏

1961年生まれ、アルゼンチン出身。元サッカーアルゼンチン代表。

アルゼンチンサッカー監督協会認定プ口チーム監督資格所持(日本のS級ライセンス相当)南米の古豪ボカ・ジュニアーズ等での指導経験あり。
2003年に日本の子供の自殺率の高さを知り、サッカーを通じて子ども達に人生の夢や希望(エスペランサ)を伝えたいという想いから神奈川県に移住。栄区野七里にジュニア向けのサッカーチームとしてエスペランサSCを設立。元はゴミ捨て場だった空き地を、自ら時間をかけて整備をして、数年間をかけて人工芝のグラウンドへ。現在は関東1部リーグに所属し、JFLの昇格を目指す。

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